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沖縄植物探訪2001夏(5)

生き物を相手にした研究というのは、大切なところ相手(生き物)に預けてしまうと先に進まなくなることが往々にしてあります。生き物の仕組みはブラックボックスが多いですから、それを全部解明してコントロール出来るようになれば良いのですが、現時点では無理な話です。今の材料植物に拘らず、言う事を聞いてくれる植物を探した方が良い場合が多々あります。カンプトテシンの場合、キジュという植物が目的なのでは無く、成分そのものが目的なのですから、同じ成分を含み、かつ扱いやすい植物があれば良いのです。早速、他の植物を調べてみました。

カンプトテシンが発表された1966年以来、他の植物にも同じ成分が含まれている事が次々に明らかになっていました。私が調べた当時(1988年頃)にカンプトテシン含有植物として知られていた植物をあげると、

・クサミズキ(1972年)クロタキカズラ科
・Ophiorrhiza mungos(1976年)アカネ科
・Ervatamia heyneana(1979年)キョウチクトウ科
・Merrilliodendron megacarpum(1981年)クロタキカズラ科

クサミズキ

写真は、クサミズキ(学名 Nothapodytes foetida、クロタキカズラ科) 八重山諸島、台湾、インドに自生する木本植物。
名前は「臭いミズキ」の意味で、葉を揉むと臭気を発するからとか、果実が嫌な臭いがする等の説明がされる事が多いですが、実際には葉も果実も特段臭くはありません。花の臭気がもの凄いのです。まるでガス漏れのよう。

これらの植物の中で実験材料としての取り扱い(組織培養やアグロバクテリウムの感染)が簡単な植物があれば良いのですが、どれも商業的に栽培される植物では無いようですから、入手するだけでも大変困難と思われました。リストを眺めると、一番気になるのはアカネ科の草本植物であるOphiorrhiza mungosです。熱帯、亜熱帯アジアからインドにかけて100種以上が分布する属で、日本にもサツマイナモリ(Ophiorrhiza japonica)とその変種、チャボイナモリ(O. pumila)、リュウキュウイナモリ(O. kuroiwai = O. liukiuensis)等が自生している事がわかりました。これらの中にカンプトテシンが含まれている植物がある可能性があると思われました。一般的に草本植物は扱いが簡単ですから期待は高まります。自生地での採集を計画し、分布を調べました。

サツマイナモリ属の分布

サツマイナモリは千葉県の清澄山を北限として、主に関西から台湾にかけて広く分布しています。
チャボイナモリは南西諸島から中国まで。リュウキュウイナモリは沖縄本島からフィリピンが分布域です。面白い事に、クサミズキも全く縁の遠い植物でありながら似たような分布域となります。

石垣島に行けば、すべての種類が手に入りそうだということが解った時点で、また行き詰まってしまいました。「島」とは言え、闇雲に探しまわっても目当ての植物が見つかるような事は無いでしょう。今でしたら、インターネットで検索すればかなり正確な自生地の情報などが簡単に手に入りますが、当時は人脈頼りになります。思ったような情報も得られないまま数年が過ぎ去り、仕事のテーマも変わりましたが、文献や学会報告などのウォッチングは定期的に行うことにしました。

数年後(1996年ごろ?)、薬学会の大会要旨集を見ていて驚きました。チャボイナモリの毛状根培養でカンプトテシンを生産したという研究報告があるではないですか。予想通りという安心感と共に、いつの間にか追い越されていたという悔しさが綯い交ぜになった複雑な感情は今でも思い出されます。研究報告は千葉大薬学部の相見教授によるもので、地理的にも近いですから機会を見て、話を伺いに行きたいものだと思いました。相見教授によるチャボイナモリからのカンプトテシン発見の経緯は、その後、薬学会の学会誌「ファルマシア」(1995年vol.31, No.12, 1363-1365)に詳しく書かれました。研究のきっかけは私と同様でしたが、日本各地で植物調査を行っていた萩庭教授(当時)との共同研究により、正確な自生地がすぐに判ったという事が最大の違いでした。チャボイナモリの成分に関する発表は1989年でしたが、実際に実験データが出たのはそれよりずっと以前の事であったのも判り、自らの情報収集力の無さに落胆したりもしました。決着はとうに着いていたのです。

カンプトテシン(CPT)研究年表(植物組織培養と成分研究を中心とする)

1966年 Camptotheca acuminataよりCPT単離と抗癌活性発見(アメリカNCI)
1974年 Camptotheca acuminataのカルス培養によるCPT生産論文(協和発酵)
1976年 Ophiorrhiza mungosにCPT含有の論文発表
1979年 低毒性カンプトテシン誘導体(CPT-11)の合成(ヤクルト本社)
1981~84年 Ophiorrhiza liukiuensis 石垣島にて採集、CPT検出(千葉大)
1986年 Camptotheca acuminata Riプラスミド感染による毛状根誘導実験開始(conocono)
1986年 Ophiorrhiza pumila 石垣島にて採集、成分研究(千葉大)
1987年 Camptotheca acuminata シュート培養によるCPT生産研究(conocono)
1988年 Ophiorrhiza属植物採集及び成分研究計画 構想のみに終わる(conocono)
1989年 Ophiorrhiza pumila CPT含有の論文発表(千葉大)
1989年 Ophiorrhiza pumila 奄美大島にて採集、組織培養研究開始(千葉大)
1989年 Camptotheca acuminata 根のCPT放出現象発見、特許化(conocono)
1991年 CPT-11 (irinotecan) 製造申請(ヤクルト本社)
1992年 カンプトテシン生産に関する研究から一時撤退(conocono)
1994年 CPT-11 (irinotecan) 製造承認
1995年 Ophiorrhiza pumila カルス培養ではCPT生産せず(千葉大)
1995年 Ophiorrhiza pumila 毛状根培養によるCPT生産研究開始(千葉大)
1996年 Ophiorrhiza pumila 毛状根培養によるCPT生産成功(千葉大)
1997年 Ophiorrhiza pumila 組織培養植物(再生植物体)の成分研究論文発表(千葉大)
1999年 Ophiorrhiza pumila 毛状根培養によるCPT生産研究再開(conocono)
2001年 Ophiorrhiza pumila 毛状根培養によるCPT生産論文発表(conocono&千葉大)
2001年 Ophiorrhiza属植物調査旅行
2003年 Ophiorrhiza pumila 毛状根よりCPT生合成遺伝子(str, tdc)単離(千葉大)
2004年 Camptotheca acuminata 毛状根誘導に成功(バージニア工科大)
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テーマ : 研究者の生活
ジャンル : 学問・文化・芸術

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キジュの毛状根培養で四苦八苦されていたのを懐かしく思い出しながら、カンプトテシンの研究の経緯を読ませていただきました。最終的には相見教授によってチャボイナモリの組織培養による生産が実用化されたのでしょうか。現在その方法にによって商業生産されているのでしょうか。
実験データが1989年よりずっと以前に出されておられたとのこと、それを情報検索でキャッチしておれば、きっと流れは変わっていたと思われ残念ですね。研究開始前の綿密な調査がいかに大切であるかを示す良い事例のように思われます。それにしても、早い時期に相見教授はチャボイナモリを発見し実用化にこぎつけられたのはさすがというところでしょうか。敬服します。

沖縄には内地にない植物が分布しているのでしょうね。今回の探訪で採取したクサミズキをカンプトテシン生産に応用することを考えていないのでしょうか。於茂登岳はオモトタケと読むのでしょうか。

高柳さん、こんばんは。
備忘録なので読みにくくて済みません。カンプトの話、実はこの後の方が色々ありました。偶然の出来事や発見など・・・まだ続きますので、時間がありましたらまた読んでやってくださいませ。

千葉大学では、植物由来アルカロイド類の天然物化学的な研究を進めていて、それに資源植物の研究が融合し、チャボイナモリからのカンプトテシン発見につながったようです。私がキジュの毛状根に着手した頃には、既にチャボイナモリもカンプトテシン資源植物として研究されていたのですから、もっと早期に培養研究が開始されても良かったわけです。大学でのチャボイナモリの毛状根培養研究が始まったのは、我々がキジュに見切りをつけた後、また別の研究室との共同研究で開始されました。

培養による生産は、やはりコストの問題で実用化には至っていません。今でも栽培したクサミズキからの抽出に依存しています。

於茂登岳(おもとだけ)は、土地開発が進んでいる石垣島にあって、自然環境が残された貴重な場所です。八重山特産の植物もありますよ。
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花好きおじさんの園芸と植物に関するあれこれ。
たまに作り話もあるので要注意。

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